神奈川県座間市で自立生活をする尾野一矢のページ
よってけ一矢んち
尾野 一矢 (おの・かずや)
Q一矢さんってどんな人?
1973年3月26日生まれです。神奈川県座間市で生まれ、育ちました。両親と姉の4人家族です。重度の知的障害と自閉症がありますが、食事や着替えなどは自分でできます。険しい顔つきのときがある一方で顔をくしゃくしゃにして笑うときもあり、憎めない存在です。
Q一矢さんが好きなことは?
「一本橋」という手遊びです。一矢さんが「一本橋!」と言って手を差し出してきたら、「友だちになりたい」という意思表示です。しばし一緒に過ごした後の別れ際に「○○さん、今度(来る)?」と何度も聞いてくることがあります。人とのやり取りがとても好きです。わが家である「かずやんち」のソファーに座ってまったり過ごすのが何よりも好きで、テレビ番組では笑点が好きです。TBSの番組もお気に入りのようです。
Q一矢さんが得意なことは?
車のメーカーを言い当てることです。ドライブ中は、助手席から視界に入る車のマークを目にすると、「いすゞ」「トヨタ」「日産」「ダイハツ」…と次々と言い当てます。幼少のころ、トラック運転手だったお父さんと道中を共にしたりして覚えたようです。
Q好きな食べ物は何?
カレーライス、カレーパン、ポテトサラダ、うな丼、カキフライ、缶コーヒー、板チョコレートなどなどです。普段はお酒は飲みませんが、お正月には実家で日本酒をおちょこ四杯飲みました。本当はいける口なのかもしれません。
Q一矢さんはどんな風に意思表示をするの?
嫌なことには「やめとくー」と言います。「ドライブ行く」「テレビ見る」と言ったりもします。周りにいる人たちが自分に関する話をしなくなると、「うるさくしないの?」とけん制してきます。「自分に関心を向けてほしい」という意思表示のようです。大きな声を出してしまうときもありますが、不機嫌だからというわけでもなく、機嫌がいいときにも大声を出します。野球のイチロー選手が打席に入ってからいろいろな仕草をしますよね。それに似て、一矢さんにとって声を出すことは自分を保つ「ルーティーン」なのかもしれませんし、もっとしっかり自分と向き合って欲しいという自己主張なのかもしれません。
Q一矢さんはどんな風に生きてきたの?
中学1年生のときに障害児施設に入所して以来、30年以上にわたって施設で過ごしてきました。両親が共働きだったため、介護をするのが難しかったからです。成人になってからは1996年に津久井やまゆり園に移り住みました。家族は「終の棲家」として、ここでの暮らしがずっと続くものと思っていましたが、2016年7月、入所者ら45人が殺傷される事件に遭いました。逮捕されたのはやまゆり園の元職員で「障害者は生きていてもしかたない」など障害者を差別、排除する考えを主張し、一矢さんも首や腹を刺されて重傷を負いましたが何とか一命を取り留めました。入所施設について考え直す機会となりました。
Q事件後はどう過ごしてきたの?
病院から退院後に別の施設に一時移った後、2017年春から2020年夏までは横浜市港南区の津久井やまゆり園芹が谷園舎で暮らしました。事件から歳月が過ぎて、表面的には落ち着いたように見えますが、事件のトラウマが癒えたとは言えません。「おなかが痛い」といって不安を訴えるときがあり、そんな時は介護者が寄り添い、丁寧に一矢さんのおなかや背中をさするなどして不安を和らげるように努めています。
Qどうして施設を出て、地域のアパートで暮らそうと思ったの?
被害者家族の中で両親は唯一、実名でメディアの取材に応じ、さまざまな集会で息子への思いを語り、差別根絶に向けた訴えを続けてきました。両親は事件後も施設での暮らしが続くものと思っていましたが、証言活動を通じての出会いの中で、都内のNPO法人「自立生活企画」とつながり、施設でも親元でもなく支援を受けながらの1人暮らしを目指すことにしました。集団生活の施設では一矢さんがマイペースで過ごすのはなかなか難しいのが現状です。「世の中の大半の人と同様の普通の暮らしをさせてあげたい」。支援団体の支えを得て、両親は次第にその思いを強くしました。新たな生活に向けて模索している様子は、ドキュメンタリー映画「道草」(宍戸大裕監督)に収められています。その後、2020年夏に施設を出て、両親が住む実家からほど近い座間市内でアパート暮らしを始めました。
Q一矢さんの生活を支えているのは誰なの?
東京都内が拠点の二つの支援団体(「自立生活企画」「呼及舎」)が一矢さんのアパート生活を支えています。神奈川では重度知的障害者の支援付き1人暮らしの実践例も支援団体も殆ど見当たらないのが現状です。介護者は20代の学生から50代のベテランまで、個性的な面々です。掃除、洗濯、料理、体調管理などを担い、入浴や排せつ時は介助します。「密」防止が求められるコロナ禍であっても密着した支援が必要なため、感染対策に気を配りながらの毎日です。
Q普段はどう過ごしているの?
平日は同じ座間市内にある障害者らが軽作業を行うNPOに通いつつプラスチックの分別作業などに汗を流し、土日は介護者が運転する車でドライブに行くことも多く、富士山五合目や小田原城、鎌倉大仏などにも足を運んだことがあります。
Qこれからどう過ごしていくの?
一矢さんと相談しながらになりますが、「仲間たち」としては、まずは地域生活への理解や共感を得られるような関わり合いを増やしていければと考えています。最近ではシンポジウムに参加したり、大学の授業に登壇したり、また、研究の為に大学の先生や学生さんたちが地域自立生活の実際を現場取材に来てくれたりもしています。両親としては一緒にキャンプに出かけてバーベキューを楽しみたいという願いがあります。何よりも一矢さんが楽しめる機会をどんどん増やしていきたいです。これからどんな出会いがあるか。仲間たちもワクワクしています。